小池百合子さん、人工知能(AI)だってよ
東京都知事の小池百合子さんが、なんかまた強烈に面白いギャグを放ったようですね。
具体的な内容については おときた駿氏のブログ あたりを見ていただくとして、彼女が言っている
最後の決めはどうかというと、人工知能です。人工知能というのは、つまり政策決定者である私が決めたということでございます。回想録に残すことはできるかと思っておりますが、その最後の決定ということについては、文章としては残しておりません。「政治判断」という、一言でいえばそういうことでございます。
っていう部分にモヤッとする人が多いんじゃないかと思うので、もうちょっとかみ砕いて解説を試みます。
話は一年前、小池百合子さんが東京都知事に当選したころにさかのぼります。当時の彼女は、きっと以下のようなことを考えていたのではないかと思います。
- せっかく都知事になれたんだから、今までの人ができなかったことをやってみたいわね。
- でも、ここにはなんだか黒い頭のネズミたちがうじゃうじゃいて、うっとおしいわね。とりあえずは、このネズミたちを退治しないと、やりたいことはなにもできなさそうね。
- 退治するには、選挙で落ちてもらうしかないわよね。私は笛を吹くから、マスコミや都民のみなさん、うまく踊って、ネズミ退治してくださいね。
- 選曲は何にしようかしらねぇ。"The Death Scent of Benzene(ベンゼンは死の香り)" とかどうかしらね。
そして、彼女は、ハーメルンの笛吹きよろしく、静かに笛を吹き始めます。彼女の吹く笛の音は多くの人の心をつかみ、一年後、黒いアタマのネズミたちはその数を大きく減らす結果となりました。
今回の人工知能発言が出た記者会見では、彼女はおそらく以下のようなことを考えていたことでしょう。
- マスコミや都民のみなさんは、思ったとおりに踊ってくれたわね。見ていて面白かったわ。
- 選挙直前には、うまいぐあいに国のほうからも、モリカケ音頭とか、イナダソングとか、トヨタスクリームとか、いろいろと応援歌が聞こえてきたわね。さすがにここまでは予想していなかったけど、おかげで思った以上に成功したわ。
- ああそうそう、日和見のコーメー党を抱き込めたのも、成功要因のひとつよ。忘れないでね。私ったらぬかりないでしょ。
- 決定過程がブラックボックス? あたりまえよ、「あれはおバカなマスコミや都民をうまく踊らせるための選曲(戦術)でした」なんて今言えるわけないじゃん。
- ネズミはだいぶ退治できたけど、戦いはまだまだこれから。全てが終わって、ほとぼりがさめたら、ブラックボックスの中身を(回想録という形で)ちょっと見せてあげてもいいわよ。
つまり、陣取り合戦の第一陣は、市場移転プロセスのちょっとした不備をネタにしていろいろと戦術をめぐらせた結果、見事に成功した。でも、戦いはこれから第二陣、第三陣と続くし、戦術の具体的な中身を今ここで明かしてしまうと反感を買うだけでロクなことがないから、ばらすわけにはいかない、ということです。
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彼女が「人工知能」という言葉を使ったのは、「その内部の決定ロジックは公開できない(外からみればブラックボックスである)」ということを別の言葉で言い表しているに過ぎません。
AIの代表格とみなされている深層学習などは、その動作を人間が外から見るとまるでわからない、ブラックボックスのようだ、と言われますが、これは文字通り
- AIがアウトプットした結果の導出過程を、人間が理解できるようなロジックで説明することは不可能であるか、非常に困難である
ということを意味します。
が、彼女はそれを巧妙に、というかかなり大胆にすりかえて、
- 私が考えている内容(戦術)をそのままここでぶっちゃけると、いろんなことが台無しになるから、説明できない。
- 私の頭の中も、AIの内部も、外から見れば「そのロジックを人間がわかるように説明することができない」という意味では一緒。だから、外から見れば私は「AI」に見えるかもしれないわね。
という意味で使っています。
今回の「方針決定」の経緯は、客観的に見ると「ブラックボックス」以外の何物でもありませんが、このワードはあまり聞こえがよくないですし、ご自身でもこれまで攻撃対象ワードとして使ってきているので、もっと他の、キャッチーで、なんとなくマスコミや都民をケムにまけるワードを探したらそれが「人工知能(AI)」だった、ということに過ぎません。
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ということで、人工知能どーだこーだというのは、彼女が勢力圏を拡大するための戦術をおおっぴらにはできないということを、それとは気づかれないように、わざとキャッチーなバズワードを使って言い換えているに過ぎません。
権力闘争のさなかで、「今回はこういう策を弄しました、次はこんな作戦で行きます」なんてことを公開する人はいないですよね。
権力闘争??
そう、これはまさに「権力闘争」です。このブログの冒頭で
- せっかく都知事になったんだから、今までの人ができなかったことをやってみたいわね。
と書きましたが、「今までの人ができなかったことをやる(やりやすくする)」ためには、権力を拡大していく(=自分の味方を増やしていく)必要があるからです。
これまでの都知事は、議会構成を所与ととらえ、いまある議会をどのようにうまく活用すれば(=いまいる議員たちとどのようにうまくコミュニケーションすれば)自分の政策が進めやすくなるか、というところにアタマを使ってきました。
しかし彼女はそこには早々と見切りをつけ、言葉は悪いですが、まずは議会を「粛清」するところから始めようと考えたわけです。もちろん、戦国時代やどこかの国と違って、日本は民主国家ですから、粛清の手段は「選挙」しかありません。選挙に勝つための戦術は、ものすごく簡単に言ってしまえば、「敵はダメダメで、味方はイケテイル」という印象を選挙民に与えることです。
東京都議会は、石原さんの時代から「伏魔殿」と言われてきたように、また女性議員へのひどいヤジなどでも象徴されるように、都民が「ダメダメ」と判断しやすい状況にありましたから、この印象操作合戦は、女性でフレッシュなイメージがある小池さんに最初から有利であったことは間違いないでしょう。
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この権力闘争が、都民にとって良いことなのかそうでないのかは、あたりまえですが、彼女が「勢力を拡大したあとに何をやるか」よって大きくかわります。
一部のマスコミや都民は、今回の一連のできごとを「茶番」と評し、都庁や議会、専門家、市場関係者などが懸命に努力した結果をないがしろにするものだ、都民が負担するコストが増えただけで何も解決していない、ちゃぶ台ひっくり返してまた元に戻そうとしているだけじゃないか、という批判をしています。
また、世の識者には、
ということを主張されている方もいます。
小池百合子都知事におかれましては、世の中にはこのような受け取り方をする方が数多くいらっしゃるのだ、ということも念頭におきつつ、これらの人も最終的には
- 小池都知事が(いろんな策を弄したにせよ)権力を拡大したことは、結果的には都民のためになったのだ
と思えるような施策をとってくれることを強く望みます。